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税務の勘所Vital Point of Tax

入居者付きの賃貸不動産を転売 消費税の仕入税額控除に「待った!」

2019/07/29

 中古賃貸住宅などを仕入れてバリューアップを行い、入居者付きで「利回り〇%」を売り文句に転売する不動産業者が、仕入れでかかった消費税の還付をめぐり、国税当局と争うケースが続出している。争点は、仕入れにかかった消費税が全額控除できるかどうか。というのも、課税仕入れをした時の賃貸住宅の用途は転売のほか、消費税が非課税となる家賃収入を得るという側面もあるため、国税当局が全額控除の処理に「待った」をかけたわけだ。


 消費税は、事業者が課税売上等にかかる消費税から、課税仕入れ等にかかる消費税を控除して、納める税額または還付する税額を計算する仕組みとなっている(消費税法30条1項)。仕入れにかかった消費税は全額控除するのが理想的だが、それが可能なのは課税売上割合が95%以上などのときだ。

 入居者付きの賃貸住宅を仕入れた場合、建物部分の転売で受取る消費税のほかに「住宅の貸付に伴う家賃」という消費税が非課税の売上もある。このように課税売上と非課税売上がある場合には、消費税法30条2項に従い、「控除すべき税額」を制限付きで計算することとしている。

 具体的には、課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れ等の税額の合計額に、課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要する課税仕入れ等の税額の合計額に課税売上割合を乗じて計算した金額を加算する「個別対応方式」による計算だ。

(参考)消費税法30条2項1
当該課税期間中に国内において行った課税仕入れ及び特定課税仕入れ並びに当該課税期間における前項に規定する保税地域からの引取りに係る課税貨物につき、課税資産の譲渡等にのみ要するもの、課税資産の譲渡等以外の資産の譲渡等(以下この号において「その他の資産の譲渡等」という。)にのみ要するもの及び課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するものにその区分が明らかにされている場合 イに掲げる金額にロに掲げる金額を加算する方法

イ 課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れ、特定課税仕入れ及び課税貨物に係る課税仕入れ等の税額の合計額
ロ 課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要する課税仕入れ、特定課税仕入れ及び課税貨物に係る課税仕入れ等の税額の合計額に課税売上割合を乗じて計算した金額

 ここで問題になるのが「用途区分」だ。仕入れた資産の用途区分の判定が、控除すべき仕入れに係る消費税額のカギを握るからだ。用途区分の判定は消費税法基本通達11-2-20《 課税仕入れ等の用途区分の判定時期》で、個別対応方式を適用する場合、用途区分は「課税仕入れを行った日の状況により行うこと」とされている。

 不動産業者は、入居者付きであっても賃貸住宅の仕入れはあくまでも「転売目的」などとして、100%の仕入れ税額控除を認めるよう主張している。しかし、最近明らかになった国税不服審判所の裁決事例などでは、仕入れた賃貸住宅の用途区分について、課税仕入れを行った日の状況で厳格に判定され、不動産業者側の主観的な思惑による「転売目的」とする用途区分の判断を退けている。たとえば次の裁決がそれだ。

 裁決書によると、賃貸住宅の転売事業に関し、消費税について「不服あり」と国税不服審判所に申し出たのは、不動産の売買、賃貸、仲介および管理などを目的とする不動産会社A社(平成30年7月9日裁決)。A社は、消費税の仕入れ税額控除を計算する上で、仕入れた際に賃借人が継続して住んでいる物件であっても転売目的で仕入れたものとの考えを押し進め、消費税の還付申告をした。しかし、税務署から更正処分等を受ける結果に。

 
裁決書上の争点は、「本件課税仕入れ(賃貸継続物件の仕入れ)は、個別対応方式の計算上、課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要する課税仕入れに該当するか否か」。A社の主張を整理すると次の通りだ。

1、本件各物件の建物の取得が当該建物の他への転売という目的がなければ決して発生しないものであり、建物の賃貸は取得に伴い法律上当然に生じてしまうものであるにすぎない。
2、本件各物件の建物は最終的に「課税資産の譲渡等」たる販売に供されるものであるから、同建物の取得に係る消費税額は、その全額が「課税資産の譲渡等」たる同建物の販売に対応する。
3、国税当局の考えによれば、販売用建物の取得から販売までのごく僅かな期間にごく僅かな住宅用賃貸による賃貸収入が発生するだけで、当該建物取得に係る消費税額の4割程度の額しか控除対象仕入税額とすることができず、残り6割相当額については消費税課税が累積し、課税の累積の排除という仕入税額控除の趣旨に照らして著しく不合理。

僅かな期間に僅かな賃料収入 それで4割の控除は不合理!?

 しかし、国税不服審判所は消費税法基本通達11-2-20について「個別対応方式により仕入れに係る消費税額を計算する場合において、用途区分の判定は課税仕入れを行った日の状況により行うこととなる旨定めており、当該取扱いは、消費税法第30条が「要するもの」と規定し、「要したもの」とは規定していないことからみて、当審判所においても相当と認められる」などとして税法から見て通達に問題はないことを確認。そのうえで国税不服審判所は、事実関係を次のように整理した。


ア、A社が、不動産の買取再販事業において扱う不動産投資家等に販売する不動産として取得し、当該取得の際に、その土地部分を「販売用不動産(土地)」勘定に、その建物部分を「販売用不動産(建物)」勘定にそれぞれ計上していたこと
イ、上記アの課税仕入れを行った日において、各物件の建物にはいずれも居住の目的をもって使用する賃借入が存在しており、A社は(中略)各物件の建物の住宅としての貸付けから生じる賃貸収入を受領していたこと。

 こうしたことから、国税不服審判所は「各物件の建物は、請求人が販売に要するために取得したものであるとともに、本件課税仕入れを行った日において、いずれも住宅の貸付けの用にも供されていたのであるから、個別対応方式により控除対象仕入税額を計算する場合において、本件課税仕入れは、課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要する課税仕入れに該当する」とした。

 A社の「僅かな期間に住宅としての貸付けによる僅かな賃料収入が発生するだけで、当該建物取得に係る消費税額の4割程度の額しか控除対象仕入税額とすることができないことは、(中略)著しく不合理」との主張については、国税不服審判所は子細に検討することなく、処分取消しの理由にはならないと突っぱねた。

 現在、東京地裁で係属している類似の事件が複数ある。そのなかには平成12年頃の国税庁の取扱いで、分譲用のマンションを一時的に賃貸にする場合でも、用途区分の判定では「譲渡のみ」と扱っても良いとする「消費税審理事例検索システム」の文書を持ち出したうえ、取扱いの異なる過去の事例などについて当局に開示を迫り、それ自体を問題にするケースも出ている。このうち平成29年に提訴された事件は先ごろ結審し、今年秋にも判決が出る見通しだ。

 しかし、過去の類似ケースの裁判例からも、賃貸住宅の仕入れ税額控除について法の解釈適用は厳格に行うべきとする判決の動向を覆し、不動産業者側の思惑通りになるかどうかは不透明な状況だ。

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